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縦横無尽に切り裂かれた体は数十個の破片になった。あっけにとられていた魔王達は恐る恐る姿を現した。
「馬鹿な」「一体どうしたんだ」
「油断するな」
ざわつく間にも血の染みが砂に沁み込んでいく。アスタロトは動かない。肉片を囲んだ魔王達はさかんに気配を探そうとするが、切り刻まれたアスタロトは完全に物体と化していた。
腕組みをしてた魔王の目が鈍く光った。
「大魔王の座はあいた。我らの協定も終りだ」
サッと緊張が走った。
この場にいるのはアスタロトが紫玉を狙っていると情報を掴んですぐに次代の大魔王めざして動き出した連中だ。
72人の魔王のうち、半分あまりが名のりをあげ、そしてさらにその半分はアスタロトのポストをより確実に空席にすべく具体的に動いた。
すなわちアスタロトがタルタロスへ入ったら中でどういう死に方をしたにせよ、紫玉を口実にできると企んだのだ。
アスタロトは魔法技術には定評がある。だからまず壁を突破させ、通り道を確保したらタルタロスに入り、目撃者のいない森の中で一気に殺害する。
魔王たちは協定を結び、息をのんで様子を伺っていた。
もちろん早急に手を打つつもりだとはいえ、その間、紫玉が活動を開始すればどの次元に変化するかわからない。それなりの保護魔法が使える、腕に自信のある魔王達である。
「アスタロトは我らが見えていた。実力派の魔王にこれだけ囲まれては、逃げ道はないと観念したんだろう」
もっともらしく結論をつけた言葉に、魔王達は喜々とした。しかし、ずっと黙っていた魔王が逃げるように後ずさった。
「いや、違う」
散らばった肉片を指さす。
「罠だ。アスタロトは死んでいない」
「おいおい、いまさら怖気づいてどうした、あんな細切れで生きられるものか」
「死んでいるなら、何故その細切れの死体が消えないんだ」
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