3-8 ジュヌーン

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3-8 ジュヌーン

「ほう、あそこで幻視を使ったか」  ショウは頬杖をついたまま、画面を凝視していた。  ここは中立都市ジュヌーン。空間特性は比較的人間界に近い。そのため天魔ともに共存できる稀な場所である。  その特殊性によりジュヌーンは天魔の有望な才能を育成すべく学園都市として発展し、研修中の天使や悪魔が和気藹々と学生生活を謳歌している。  ところでショウは、ここジュヌーンに別荘を持っていた。  奥地にひっそり佇んでいるため知る人はほとんどない。だが、緑に埋もれた古い屋敷は、いったん中に入ってしまえばショウ好みの洗練された内装に品の良い家具や調度品が揃い、別世界のように居心地がいい。  アスタロトもよくこの家に遊びにくる。  最近は会うとなると芳賀家ばかりだが、そもそもこの別荘を手に入れたきっかけは、アスタロトが気楽に過ごせる場所が欲しいと騒いだからである。  確かにジュヌーンならいちいち全身に保護魔法をかける必要もないし、魔界や天界ほど人目にもつかず、不自由もない。  だが、魔界の四大実力者がこの特別な中立都市に家屋を所持するとなると、周囲が騒ぐ。こじんまりした屋敷では防犯上問題があり、広大になると政治的意味合いを勘繰られる。  ショウはその現実的な難しさをこんこんと説明したが、アスタロトが全て無視して物件を物色しはじめたため、仕方なく自分が別荘を持つ事にした。  だから手料理をふるまえるようキッチンにもこだわったし、客間の一つはアスタロトの専用として他の客を泊めることはしない。  しかし成り行きとはいえ、いざ別荘を所有してみると思いがけず利用価値は高かった。  
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