3-8 ジュヌーン

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 高級官僚のショウには、日常的に要人との交流が発生する。  天界上層部はまさに上流階級の社交場である。アスタロトが『面倒』の一言で終わらせる会食やパーティが年中行われ、そこで人脈をつくることが昇進に大きく関わるのだ。  そこでこの別荘が活躍する。例えば仕事上、懇意にすべき人物ができたとする。他のエリート達の目が光るなか、抜け駆けするにはプライベート空間に移動するのが最も確実で手っ取り早い。  誘うのにジュヌーンはうってつけだった。  上層部の天使はかなりの確率で魔天学院の卒業生であり、この都市には学生時代の想い入れや郷愁がある。  さらに学園都市だけあって、天界の一等地に比べれば物価や地価が安く、若輩のショウでもそれなりの屋敷に手が届くのも好都合だった。  アスタロトのせいで思わぬ別荘もちになってしまったが、この静かな隠れ家は、集中して仕事や勉強をするにも最適なのである。  そしてショウは今、そのお気に入りの別荘の書斎にいる。  リラックスが目的の広間と違い、書斎は完全に仕事用で機能優先だ。3D通信機はもちろん、選び抜かれた魔法道具、そしておびただしい仕事の資料が揃っている。だがこの大量の品もあるべき物はあるべき所へ収納され、神経質なほど掃除も行き届いていた。部屋には持ち主の性格が出るが、このきっちり感がいかにもショウらしい。  書斎には等身大の鏡が置かれている。  ただの鏡ではない。アスタロトが魔法塔で使っていた巨大モニターの簡易版である。アスタロトがお忍びで遊びに来ている間、魔界の様子を映すために用意したしろものだ。 「魔術に関しては派手好きなのに、幻視程度で片をつけるとはずいぶん地味な魔法を選んだものだ。ま、それしきでやられる魔王達の方が余程問題だが。大魔王様が常々、近年の魔王の魔法技術が劣化していると嘆いていたが、実際ひどい」  ショウは手を伸ばし、幾つもの銀のスイッチがついた機械を引き寄せた。つまみを操作すると鏡は虹色に光り、画像が切り替わる。  
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