207人が本棚に入れています
本棚に追加
/342ページ
やはり無理か。
こんなことをしている間にも大魔王様はタルタロスに入ってしまう。
苦悩の表情でアスタロト公爵家の城内を映し出す。するとうるさい秘書が我が物顔で廊下を闊歩しており、ショウはすっかり不愉快になった。
何だあの元気溌剌な態度!
あの秘書は主君が心配じゃないのか。それとも状況を理解するアタマが足らないのか。大魔王様が出発して羽が伸びているとしか……そうか、やはりもう魔法塔にも残ってないのか……
ショウは縋る思いで、新たに透視可能にした魔法塔に映像を変えた。
「え」
目を疑った。魔法塔にはアスタロトが魔界の様子を観察するために制作したハイビジョンある。それがでかでかとタルタロスを映し出しているのだ。
ショウは思わず快哉を叫んだ。しかも定点を透視してるわけではなく、どうやらアスタロトの視点がそのまま画像に反映されているようだ。これで状況は丸わかりである。
「とりあえず反逆者達は全滅だ。さ、この経緯を克己にも知らせてやらねば」
実はこの透視魔法、芳賀屋のTVとも繋がっている。しかも芳賀屋とはそのまま繋がった画像と会話もできる便利仕様である。
アスタロトの心配性が高じて、いつでも克己に繋がれるように過保護設定にしたらしい。危険渦巻く魔界の住人であるアスタロトにとって、この程度の安全確保は当然の感覚なのだろう。
ショウは画像を芳賀屋に指定して、画面が変わるのを待った。
ピッと音がして、テレビの中央が白い十字に光る。
「ショウ、太郎は無事かっ」
どうやらテレビの前で正座待機していたと思われる克己が、吠えるようにくってかかった。
ほんのちょっと前の連絡では、ショウがゾンビみたいな顔色で『大魔王様は反逆者にかこまれて絶体絶命の大ピンチ』と告げるが早いか『そんな訳でひきつづき私は大魔王様を見守らせてもらう。さらば!』と映像を切ったからだ。
こんな不安を煽るだけの中間報告ならしない方がマシだが、ショウも律義な性格なので随時報告を怠らない。
「御無事だ。さすがは大魔王様、ものの数分で魔王達を仕留めておしまいだ。見事な手腕だった」
こっちは現場をみているので悠々のショウである。克己はホッと胸をなでおろした。
「そっか。あー、よかったよかった。どうなるかと思ったぜぇ」
「ところがそうとも言えないんですよね」
「えっ? なんで」
ショウの渋い顔に、克己はまたもや心配になった。
最初のコメントを投稿しよう!