3-8 ジュヌーン

5/5

207人が本棚に入れています
本棚に追加
/342ページ
「大魔王様は、実力もなく根性も悪い魔王連中を心底毛嫌いしてたんです。いくら手早く片づけたかったにしろ、お遊び程度に脅してすぐ殺してしまうなんて納得できない。いくらでも相手を苦しめる殺し方があったのに」 「太郎はそんな意地の悪いことしないだろ」 克己は反論した。しかしショウはきっぱり言った。 「これは気質の問題ではありません。大魔王と魔王の関係は上下関係です。魔界は実力社会ですから下に示すのはより強い力、権力や魔力ということになります。その点から考えるにあのやり方では手ぬるい。何故だろう」 「何故だろうって……だってそもそも紫玉取りに行ってるんだから、そんな奴らに構ってる場合じゃないじゃないか」 とりあえずの答えだったが、ショウは顎に手を当てたまま頷いた。 「かもしれない。確かに今日の大魔王様は最初からとばしてる感じで……何だかやたら急いでるんですよ……そうか、あの強烈な保護魔法を使ってるせいか。だとすれば半端なく消耗するから時間を気にしてるのか」 「ちょっと待って俺、全然わかんないんだけど?」 「待てよ、時間制限を前提にタルタロスに入ってるってことは……あああ、まずいっ! まずいぞ、こうしてはいられないっ、さらばだ克己、また連絡するっ」 「わー、まてまて、ショウ、待てよっ、何がまずいんだよー!」 よー……という声の余韻が虚しく響く。TVの画面はもう真っ暗だった。 克已は思わずペンダントを握りしめた。アスタロトの骨でできた強力なお守りである。アスタロトと別れてからまだ、たかだか半日、なのにずっと前の事のような気がする。  大丈夫、太郎は何でもできる。いつだって助けてくれた。だから大丈夫、強いんだから。  だが、いくら自分をなだめようとしても、別れ際のアスタロトの美しい目を思いだすと居ても立ってもいられなくなるのだ。  静かなまなざしだった。でもキラリと光って克己を真っすぐにつらぬいた。  あの目は口から出た言葉の何倍も何十倍も的確にアスタロトの気持ちを伝えている。並々ならぬ覚悟を感じた。だとすれば、そんな覚悟が必要なほど紫玉を手に入れるのは難しいという事になる。  太郎が強いのはわかってる。でも絶対の大丈夫なんてない。  太郎が強いのは自分の命に対して妙に冷めていて、そのぶん恐れ知らずだからだ。きっと紫玉を獲り損ねたら帰ってこない。  克己はぞっとした。  俺は、どうすればいいんだろう。太郎のために何ができるだろう。  しっかりしろ!  克己はふらりと立ち上がり、そのまま台所に向かった。
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加