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「何を突然仰るかと思えば……大魔王は体調おもわしくなく、ただ今面会謝絶でございます。魔界に戻られてからはずっと寝室でお休みになっておられますが」
ルクルは沈鬱な表情で答えた。しかしショウは即座に否定する。
「ああはい、偽物ね」
「ちょっ、聞いてます? 私の返事。言いがかりも甚だしい!」
「私に嘘は無用だ。ついでにいえば天地会談もダミーだったそうじゃないですか。世に知れたら事でしょうが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。私が知りたいのはひとつ」
バレてる。天地会談にダミーを出席させたことがバレてるー!
ルクルは頬がひくつくのを必死に抑えた。動揺したら負けである。そしてルクルは負けるのは大嫌いだ。とくにこの天使は宿敵たる予感がする。
「いくら上級天使さまとはいえ、ただいまの発言はお取り消し願います。アスタロト様を偽物呼ばわりするなど、名誉に関わる決めつけでございます。本日はこれで失礼致しますわ!」
そそくさと通信を切ろうとすると、ショウは低い声で凄んだ。
「受信を切ると大魔王様が危険ですよ」
「ですから、アスタロト様はお休みされてると申し上げたはず」
「私は今、なけなしの理性でこの通じない会話に耐えている。大人しく聞いているうちに答えた方が賢明だ。天使が平和主義者ばかりだと思ったら大間違いです」
「私がアスタロト大公爵家第一秘書とわかって脅すおつもり?」
「そうです。事は一刻を争う。脅しで済むうちに答えて下さい。有能な秘書ならそろそろ理解してくれてもいいはずだが」
ショウは鬼気迫る口調でルクルに言った。
「私と大魔王様は魔天学院からの付き合い、一方、秘書殿は昨日今日の雇用関係、私とあなたとでは大魔王さまとの絆の強さが違います」
「はあ」
ショウのマウントがえげつない。
「ダミーの事もタルタロスの事も大魔王様から直接聞いたことですから情報がもれた訳ではない。早く御覚悟なさい」
「アスタロト様がご自身で仰ったですってぇ?」
ったく、ひとが必死に取り繕うとするそばからあの人はー!
気苦労の絶えないルクルはアスタロトに対しても苛立ちを隠しきれず語尾が跳ねあがる。
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