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話がまとまった所で悪魔は克己に言った。
「つかまれ。みどりが池まで瞬間移動しよう」
「すごーい! 太郎、そんな事できんの?」
天使がはしゃぐ克己に文句をつけようと口を開いた。天使は克己が悪魔を友達扱いしている事を快く思っていない。ましてその魔力を軽んじるような発言は腹に据えかねるのである。
「この方をどなたと、」
「行くぞ」
悪魔は天使の方を目で制した。克己はすでに悪魔の袖につかまっている。
悪魔ももちろん人間の格好をしていて、相変わらずの使い古しのTシャツにジーンズ姿だが、天使に向けた眼差しは厳しかった。
呪文とともに風が巻き上がった。
ふわりと体が持ちあがり、竜巻に吸い込まれる感覚がする。
いつの間にか三人の姿はこの家からなくなっていた。
あっと言う間にみどりが池。
三人が姿を現すと、人魚が悲鳴を上げて水底に潜った。
「おー、うようよしている。人魚どころか死霊の巣窟じゃないか」
克己にはわからないが、悪魔と天使には牙をむく魑魅魍魎がはっきりと目に映っていた。
「天界のものはいるか」
「いや、ここは魔の気流が支配しているようです。こんなに負のエネルギーが強いと天界のものは近づけません」
「わかった。はじめる」
悪魔は低い声で言った。阿吽の呼吸で天使は彼の斜め後ろに下がった。背を向けたまま悪魔が言う。
「昇、克己を頼む。絶対に魔法陣から出すな」
「大丈夫だよ、太郎。俺は」
「こら、話かけるな!」
天使はピシャリと言って克己の腕を掴んだ。思い切り引っ張られた克己は、よろけたところで天使に捕まる。
「いいか、魔族がこんな真昼間に魔法で勝負するのは大変な事なんだ、足を引っ張るんじゃない」
天使は小声でまくしたてた。悪魔は集中している。二人のやりとりなど聞こえていない様子で、長い呪文を唱え始めた。
辺り一体が急に暗くなる。
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