1-6 お仕事

3/6
前へ
/349ページ
次へ
 話がまとまった所で悪魔は克己に言った。 「つかまれ。みどりが池まで瞬間移動しよう」 「すごーい! 太郎、そんな事できんの?」  天使がはしゃぐ克己に文句をつけようと口を開いた。天使は克己が悪魔を友達扱いしている事を快く思っていない。ましてその魔力を軽んじるような発言は腹に据えかねるのである。 「この方をどなたと、」 「行くぞ」  悪魔は天使の方を目で制した。克己はすでに悪魔の袖につかまっている。  悪魔ももちろん人間の格好をしていて、相変わらずの使い古しのTシャツにジーンズ姿だが、天使に向けた眼差しは厳しかった。  呪文とともに風が巻き上がった。  ふわりと体が持ちあがり、竜巻に吸い込まれる感覚がする。  いつの間にか三人の姿はこの家からなくなっていた。  あっと言う間にみどりが池。  三人が姿を現すと、人魚が悲鳴を上げて水底に潜った。 「おー、うようよしている。人魚どころか死霊の巣窟じゃないか」  克己にはわからないが、悪魔と天使には牙をむく魑魅魍魎がはっきりと目に映っていた。 「天界のものはいるか」 「いや、ここは魔の気流が支配しているようです。こんなに負のエネルギーが強いと天界のものは近づけません」 「わかった。はじめる」  悪魔は低い声で言った。阿吽の呼吸で天使は彼の斜め後ろに下がった。背を向けたまま悪魔が言う。 「昇、克己を頼む。絶対に魔法陣から出すな」 「大丈夫だよ、太郎。俺は」 「こら、話かけるな!」  天使はピシャリと言って克己の腕を掴んだ。思い切り引っ張られた克己は、よろけたところで天使に捕まる。 「いいか、魔族がこんな真昼間に魔法で勝負するのは大変な事なんだ、足を引っ張るんじゃない」  天使は小声でまくしたてた。悪魔は集中している。二人のやりとりなど聞こえていない様子で、長い呪文を唱え始めた。  辺り一体が急に暗くなる。
/349ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加