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「何だその他人事な言い方! 今からでも大魔王様に連絡してお止めできないのか、有能な秘書というなら通信手段くらい持ってるんだろう?!」
あと6時間だと?
それっぽっちで、一体何ができるというのだ。
胃がキリキリと痛んだ。状況はあまりに不利だ。短かすぎる。
「通信手段? そんなものある訳ないでしょう。あるんだったら今すぐこの無礼な通信を切って大魔王にお知らせするわよ!」
「じゃ、本当になにもないのか」
「だからさっきからそう言ってるじゃない。それにあの方は私が諫めたところで手を引いたりなさらないわ。旧知の友人ならそれぐらいわかりそうなものだけど。とにかく、ここまできたらもう仕方ないのよ。あなたも腹をくくるのね」
「秘書殿は諦めが良すぎる。駄目の一点張りじゃなくて、方法を考えるぐらいしたっていいだろう」
「心配なのはわかるけど私に絡んだって何一つ解決なんかしないわよ」
ルクルはびしっ、とショウに指をつきつけた。
「さっきから大人しく聞いていれば、ずいぶん人を無能扱いしてくれるじゃないの。あなたは何でも知っているつもりかもしれないけど、自惚れてもらっちゃ困るわ。そもそも紫玉獲得は単なる力試しじゃない、複数の思惑があるのよ」
「複数の?」
ショウが聞き返すとルクルは皮肉な微笑みを浮かべた。
「かねてからアスタロト様は自分を快く思っていない一派を一掃したかったのよ。これはパパから聞いた話だけど、アスタロト様が魔王になりたてだった頃、先代のアスタロト様が急逝されたの。知ってる?」
「ああ」
「先代は煌びやかな風貌で色恋の絶えない方だったし、突然だったし、表向きは病死だったけど暗殺の噂で魔界は持ち切りだったらしいわ。
もちろん魔王達はこぞってアスタロトの座を狙ったけど、あまりに熾烈な戦いで本命の有力者が全滅してしまったのよ」
天界でも連日話題になっていたのでショウも覚えている。
しかも当時、ド新人のアスタロトは名乗りを上げたくなくて渋々の嫌々だった。しかし強く参加を促されたため、やむなくエントリーしたのだ。
ショウは当時、固唾をのんで成り行きを見守っていた。
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