207人が本棚に入れています
本棚に追加
/342ページ
その頃。
「 Lyophylum aggregatum!」
絶体絶命のアスタロトは、とっさに防御の構えをとった。
弱まったシールドだけで紫玉の発する天界の空間波には耐えきれないとふんだ彼は巨大な透明の盾をつくり、ダメージを減らそうとしたのである。
光の渦は危機一髪のタイミングで通りすぎた。衝撃波の直撃は避けられたが、それでも体中にビリビリと痺れが走った。
無論、その後の空間は天界のものである。
「…………あぁ、うう」
思わずうめき声が出る。あまりのまぶしさに目が眩んだ。
目をおおうため無意識でかざした左腕は、袖がボロボロになり、やぶれた生地の下からのぞく皮膚も赤く腫れあがった。
過去、保護魔法をかけて天界に行っても、まぶしさを感じたことはある。だが、今回のように針が刺さるような感覚ははじめてだった。
アスタロトは、痛みで滲んでくる脂汗をぬぐった。自分の保護魔法に確固たる自信を持っていただけに、この衝撃は大きかった。
しかしぼんやり嘆いている時間はない。
アスタロトは青ざめていたが、目はぎらぎらと輝いていた。
「どうせ、紫玉は目覚めたんだ、こうなったら好き放題やってやる」
アスタロトはふいにおかしくなって、笑ってしまった。
絶体絶命であるのに、思う存分魔法が使えるとなるとうきうきしてくる。
私はやっぱり魔法が好きだな。
胸の中で呟やいてみる。そのシンプルな想いがすんなり浸みて心地よかった。
「指環よ、我に力を。目覚めてアスタロトの声をきけ」
右手の中指にはめられていた銀細工の指輪は、不気味な光彩をたたえている。公爵家の紋章を彫った無骨なリングである。
依然として四肢は痺れ、痛みは強かった。だが、かまうもんか、と思った。死んでたまるかとも思った。
リングを指から抜いて、思いきり遠くへ放り投げた。
封印塔の方角である。はるか彼方で砂がとびちった。
「まってろよ紫玉。たどりつくからな」
その言葉が言い終わらないうち、ガクガクと地面が震えた。
最初のコメントを投稿しよう!