3-9 戦い

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 ところかわって芳賀屋。  克己は並々ならぬ気合とともに台所に立っていた。  これでも宿屋なので冷蔵庫は業務用、普段からそれなりの食材がストックされている。(その割には普段、たいしたものは出ないが)  テーブルの上には代々の宿屋の主が使っていたと思われる料理本が広げられていた。 『これで決定!わが家のつまみ』『酒によくあうつまみ100選』『手軽でおいしいスピードcooking』『おうちで居酒屋さん』  どれも使い込まれ、本の縁がセピア色に変色している。克己はエプロンの紐を締めると、つぎつぎと冷蔵庫から材料を取り出した。 「俺は極めるぞー。こうなったら作れそうなものを片っ端からいったるかー!」  調理台の上に肉や野菜が山積みになっていく。その間も克己の独り言は止まらない。 「えーと、さやいんげんは筋をむいて下茹で、にんにくで下味をつけた豚肉でくるりと巻いて揚げたらめんつゆで煮る。オッケー、楽勝。  きのこは割いてバター焼き。何?レモンを添えろ? いいや、ユズもらって凍らせてあるのがあるからそれで良し。  ごぼうはささがきにしてきんぴら。いいね、俺ささがき得意、まかせろ。仕上げに胡麻いっぱいかけよ。あとつまみだしちょっと辛めにしちゃおう」  ちなみに緊急事態ということで芳賀屋は本日臨時休業になっている。  いつもは母屋とほぼ繋がっている温泉浴場のせいで、つねに誰か人の気配があるが、今日は頼りないほど静かだった。だから余計に克己は張り切って声を出す。 「じゃがいもは蒸して半分はポテサラ。中身はハムと晒し玉ねぎとゆで卵を入れてマヨネーズと粒マスタードで味付けね。ふんふん、じゃあまずゆで卵つくっとくか。  そんで残りの半分はマッシュポテトにしてミートソースと交互に重ねてチーズのっけてオーブンで焼く。オーブン使ってる間レンジ使えなくなっちゃうから準備だけして最後にオーブンだな」 棚から道具も取り出す。そうしながら時々茶の間のテレビの気配を探している。
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