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「サラダは何がいいかな。んー、豆腐があるから生野菜の上に豆腐を並べて薬味たっぷりの中華だれをかける。先に野菜だけちぎって水にさらしとくか。
揚げ物もないとな。山芋を青のりの入った衣で上げて天ぷら。どうせ油あっためるなら鳥のから揚げも作っちゃおう。それじゃ先に鶏肉解凍して下味つけないとだな」
いそいそ。冷凍庫から鶏肉の塊を取り出して早速レンジで解凍する。
「体があったまるもの必要だな。それじゃあ大鍋はおでんだ。これは煮るだけ煮ていったん冷まして味、染み染みにしてー。
あと太郎は魚が好きだから鯛を昆布〆にして季節の野菜と酒蒸しだ。あ、ならショウの好物も作らないと怒るからエビチリも作るか。野菜もないと栄養バランスがどうこう騒ぐからほうれん草の胡麻和えはどーんと大量。海老と鶏肉解凍するならついでに茶碗蒸しも作っとこう」
克己は特に料理が得意というわけでもないが、常連の老婦人たちがしょっちゅう顔をだしては手作り総菜をくれるため、基本的な調理はできる。なぜならおばあちゃんズは作り方を聞いたが最後、手取り足取り教えたがるからだ。
包丁で野菜の下ごしらえを始める。コンロに鍋がかかり、湯の中でコトコトと具のさわぐ音や、出汁の美味しそうな香りがただよってきた。
「御飯は銀シャリにしよう。いや、混ぜごはんもいいかな。でも二人ともお茶漬けも好きだからな。やっぱ普通に炊き立てごはん。米はパリッとたかないとな。一粒一粒がキリリとたってなきゃいかん」
うん、うんと勝手に頷いて早速米を研ぎ始める。
時間の経過とともに調理も進み、調理台には所せましとならべられた下準備中の鍋や材料が増え続けている。すでに一人や二人では食べきれない量だ。しかし克己は、手を休めるつもりは毛頭ないらしい。
「しまった、糠漬け仕込み忘れてた。きゅうりと大根と人参でいいか」
野菜入れのフタをあけ、近所のヨネさんから分けてもらった野菜をかきわける。ちなみに糠床は近所のイネさんから分けてもらったものである。
料理の手順で頭をいっぱいにしても単純作業の合間には、気がかりが戻ってきてしまう。克己は力をこめて野菜を洗った。
大丈夫、太郎は何でもなかったようにすぐに帰ってくる。
だって約束したんだから。美味い肴を作って待ってろって太郎が言ったんだ。
これが全部出来た頃、太郎は帰ってくる。
克己は自分に言い聞かせて料理に没頭した。
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