3-10 挑戦

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 六角柱を構成している99本のうちの1本、アスタロトから見て正面上部の筒に迷わず目線をあわせる。 「kuchneromyces 」    握りこぶしの中で爪をぐっとくい込ませた。  ……浮け!  やはり魔力の加減が思い通りでない。そもそもこの銀の円筒は見た目以上に重く作られているのかもしれない。念じながらじわじわと魔力を強めていく。そして狙いを定めた円筒に向かって掌をかざした。  銀の筒が眠りからさめたように、ごとりと動いた。  封印されてからずっと固く組まれていいた筒は、動くと間に詰まった砂がザラザラこぼれ落ちた。  そしてゆるりと空に浮かんだ。  不思議な光景だった。闇の中で銀色の巨大な円筒が横になって浮いている。 アスタロトの額から汗がしたたりおちる。 「……ふう」  じわじわと天界の空間が体を蝕んでいるらしい。むしょうに体が熱い。この巨大な筒を静かに静かに着地させねばならないのに、汗が目に入って見えにくい。  そっと……そっと……  ゆっくり息を吐きだしながら銀の円筒を移動させ、封印塔から離れた砂地に下ろした。また汗が頬を伝っていく。  ドオン……と遠雷のような音がして土けむりがあがった。  とりあえず一本目は成功したらしい。あと残り98本。 「よし、次」  アスタロトは肩で息をした。張りつめて作業しているときはどうしても呼吸が浅くなる。止まらない息切れを抑えようと深く呼吸した。だが生温かい空気を吸い込むといいようのない吐き気がした。天界の穢れなき空間は劇薬のように強い。 「Tlactarius J」  吐き気をこらえて呪文を続けた。今度は六角柱の下部を構成している底辺の一本に目をつける。躊躇いはなかった。アスタロトは解除する円筒の順番と呪文は全て頭に叩きこんでいる。
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