3-10 挑戦

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……さら。 …………さら、さら、さら。  流れている。絶えず、絶え間なく耳元で何かが流れる気配がしている。 気付いたアスタロトはぼんやり薄目をあけて、音の正体を確かめようとした。 「痛……」  少し体を傾けただけでも関節がミシミシと悲鳴をあげる。  まず目に入ったのは自分の手だった。その手の下を水が流れるように砂がうごめいている。  砂を動かしているのは強い風だった。細かい砂は風にあおられるたびに形を変える。  アスタロトは顔にかかった砂埃を払った。その間にも地面をえぐるような風のせいで砂塵が舞い上がる。  ようやくゴロンとあお向けになると、魔界の9つの月がナイフのように光っていた。  もう一度目を閉じる。次々と冷たい風が体の上を渡っていく。だが、それがアスタロトには心地よかった。あれほど悩まされた吐き気もおさまり、皮膚を焼くような痛みもずい分落ち着いている。この冷たい風を吸い込むたびに、明らかに体が楽になる。 「……シールドの強度が戻る訳ないしな……ああ、そうか」  アスタロトはあまりに単純明快な理由に自分の馬鹿さ加減を笑った。  紫玉は三界の空間にアトランダムに変化する。とはいえ先ほどまで天界の空間に変化していたなら、次は人間界か魔界に変化するのが順当だろう。紫玉が光ったからといって焦る必要など全くなかったのだ。最悪、天界の空間が持続するだけで、紫玉の変化はむしろ歓迎すべきだったのである。  今、タルタロスは大ピンチのアスタロトにはまことに好都合なことに、魔界の空間に変化していた。おかげで息がつける。  アスタロトはそろりと起きあがった。  どのくらい倒れていたのか見当がつかないが、とりあえず月の位置から逆算すると、おおまかに1時間くらいだろうか。  時間は失ったが引き換えに体力は回復した。まだ眩暈は残っていたが、アスタロトは思い切って立ちあがった。
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