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「あの封印塔さえ小さければ、ずい分早くて楽なんだが」
しかし、封印塔にがんじがらめにかけられている呪文の数を思えば、そこにさらに縮小の魔法をかけられるようなスキはない。
とはいえこの大きさがネックなのは間違いない。なにしろたったの三本を外しただけで倒れるほど労力を奪う。
地面に転がった円筒に目線を流すと、伸ばした自分の手と遠くで小さく見える円柱が重なって映った。
「そうか、逆だ」
逃げそうな閃きの尾っぽをつかまえようと、アスタロトは声にだして繰り返した。
「魔法をかけるのは封印塔じゃない。封印塔が小さくみえるぐらい俺が大きくなればいいんだ」
アスタロトは頷いた。天界の空間で衰弱し、立つのも精一杯だった先刻とは大違いである。魔界の空間に変化して時間が経過するごとに頭の中がすっきりしてくる。
アスタロトは靴底に仕込んである白い錠剤をとりだした。自らブレンドした魔法薬である。
呪文とともにその薬を飲み込むと、めきめき体が巨大化した。大きくなるアスタロトからすれば、まさに封印塔が小さく縮んだようにみえる。周囲が砂漠でこの封印塔しか建造物がないため目の錯覚もわかりやすい。
「これよし……でもない、か」
ぎゅっと身を固くして巨大化に耐えていたが、ためしに腕を動かしてみて思わぬ副産物に気付いた。
体がずっしり重いのである。封印塔にあわせて巨大化の限界ぎりぎりまで細胞に負担をかけている。全身に筋力強化ギプスをくくりつけてるように自由がきかない。
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