3-12 封印

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3-12 封印

 ショウの予想は的中していた。 「LyophyIluw ulm ari um J」  途中から、アスタロトはとにかく円筒と呪文のことしか考えないようにしていた。雑念は失敗に繋がる。だが無視できないぐらい頭がズキズキ痛んで疲れを主張しはじめた。腕も足も怠い。 「Tr icholoma」  呪文を唱えると口の中の砂を噛んだ。心地よいはずの風だったのに、時間の経過とともに体温を奪って指先の感覚がない。全身を覆っているはずの保護魔法はどの程度効果が残っているのだろう。  考えたくはなかったが、もはやほとんど無効化している気がした。そうでなければ風の冷たさなんて感じるはずもない。 「Hygro phorus rus sula」  アスタロトは息苦しさで何度も大きく息を吸い込んだ。  タルタロスに入ってからの奮闘で身なりはすでボロボロだが、ひどいのは外見だけではない。魔界の空間に戻って一見回復したかと思いきや、さきほど天界空間に変化した時間にくらったダメージが衰弱に拍車をかけている。  清浄な天の空間は魔物の体を焼き尽くす。眩しい光は皮膚を、呼吸してとりこんだ空気は劇薬のように内臓を焼くのだ。  その威力は強力で、影響を完全に払わないとダメージが持続する。  こうして封印をとく間も体のあちこちに痛みが走るのは、炎症が進んでいるためだ。  ……ああ、芳賀屋の温泉に入りたいなあ。  突然、思いつく。芳賀屋の霊泉は天魔人間の関係なく、癒し効果を発揮する良泉だ。綺麗好きのアスタロトは温泉が大好きだが、砂埃まみれの今、あのお湯に浸かったらどんなに心地いいだろうと思わずにいられない。  いかん、こんな雑念がわいてくるなんて集中力が落ちてる証拠だ。 「Lepista nuda 」  アスタロトは声を張って呪文を唱えた。気を引き締めても頭痛は消えない。目頭を押さえて痛みを逃す。もはや歪んだ三角錐になった封印塔は、そんな頼りない姿になってもまだその中心部を見せなかった。
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