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持ちこたえろ。
アスタロトは激しく肩を上下させ、沈黙の中に響く自分の息遣いを聞いていた。
85本目の円柱に手をかける。
最後に近づけば近づく程、パイプは頑丈に地中深く組みこまれており、それを引き抜くのは容易でなかった。
「……くっ」
ぎりぎりと歯を食いしばる。渾身の力でズボッと円柱は抜けたが、反動で体は仰向けに転がった。
すぐに態勢を整えようとしたが起き上がれない。地面に両手をつき四つん這いの姿勢からどうにか立ち上がった。もう一度深く息を吸いこむ。
「Phliota squarrosaJ jusuk slood sijuen sleojf sllodok du dkie dju eugatekdoihyfg ieunfijf fgii virnffmvk lwokfi go firntig gootws gtwqtdbuf hgir」
残り14本、86本目の円筒に手をのばす。
三角錐の側面、紫玉を守る核心を構成する一本だ。
これも深々と地面に突き刺さっている。
アスタロトは用心深く両手でしっかり握りしめ一気にひき抜いた。ぬけた拍子に、老朽化した円柱の一部が粉々に破損し、弾けてアスタロトの頬をかすめた。生温かい血が頬を伝う。
「いて……」
さすがに紫玉にごく近い場所を守ってきた円柱だけあって脆くなっているようだ。この抜きにくく壊れやすい円柱がまだ十本以上残ってる。
アスタロトは流れる血も構わず、次の1本に手をかけた。これもまた深く、びくともしない。
普段ならこんな円柱ぐらいいくらでも引き抜ける。
だが力が入らない。
思うように魔法が使えないのが、こんなに不自由だとは思わなかった。
子供の頃、まだろくに魔法を扱えなかった時代を思い出す。あの頃は夜明けのこない闇のような日々だった。いくら努力しても魔力が上がらない。
その理由を知る前は自分の不出来さを、理由を知ってからはその境遇を心から憎んだ。
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