3-12 封印

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 掴んだ円柱が握った拍子に砕けた。  アスタロトは苛立ち、一本づつ外す以外に方法がないと知りながら、一気に蹴散らしてしまいたい衝動に囚われた。  しっかりしろ。  アスタロトはもう一度円柱を掴み直す。頬の出血はまだ止まりそうもない。  だが、これしきだった。昔、シュウを亡くした時の事を思えば、どれもたいした事なんてないはずだった。  アスタロトの基準は常にそこにある。  魔界での戦いも、魔王同士の妬みも、えげつない噂話も比ではない。  そのせいか、いつも窮地に陥ると反射的にあの頃に気持ちが戻る。無力さで途方にくれたあの瞬間が、二度とそうなるなと正気に返らせるのだ。  この程度のことで苛立ってる場合じゃない。  アスタロトは円柱を握る手に力を込めた。  アメジスト色の瞳に光が戻る。そのまま勢いをつけて引き抜くと、姿勢を正して封印塔の前に仁王立ちになった。  最後の気力をふりしぼり、アスタロトは再び封印塔に挑もうとする。  銀の円柱は残り13本。  感覚でわかる。どうせ保護魔法も体力もあと1時間も持たないだろう。正念場だった。 「Phaeolepiota aurea 」  慎重に呪文を唱える。前髪の下からのぞくアスタロトの目は無心だった。  円柱に手をかける。両足を踏ん張り、全力で抜いた。  軋むような体の重みは無視するが、息切れだけは押さえようがない。抜いた円柱を後ろに転がし、次の呪文にかかる。 「Bdetus edulisJ」  言うなり掴んで、残り12本目のパイプを抜く。これも砕けたが、再度地面に近い部分を掴んで持ち上げた。また砕ける。握り直してずるずると引き抜く。 「Leccinum scaberu」 休まず次の一本に手をかける。 「Romaria Sxtrytis」  さっきまでとは見違えるようなスピードだが、これぞ火事場の馬鹿力である。  紫玉が獲得できなければ、この至近距離で次元変化に晒されると言う事だ。今、天界の次元に変化したらもうアスタロトは逃げられない。一分一秒でも早く封印を解かねば助かる道はないのだ。躊躇う選択肢はない。 「Tremella fuci formis Berk J」 アスタロトは次から次へと呪文を唱え、驚異的な力で円柱を引き抜いていった。
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