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3-13 タイムリミット
「あと……3本……」
ついに銀の円柱は残すところ三角錐の側面をかたどる三つの辺だけになっていた。
三つの円柱は上部一点で集結し、真下の紫玉を守っている。
その中心は相変わらず不透明にぼやけていて、地面が見えない。アスタロトですらその内部は透視できなかった。
しかし、ここまでくればあと三本。中の確認より封印の解放である。
アスタロトは深呼吸した。
そして呪文を言おうと口を開きかけた、その時。
銀の円柱が守る不透明な部分がきらきら輝きだした。
まずい、と思うが否やアスタロトは素早く呪文を唱えた。
変化は恐怖でしかなかった。円柱を掴み、根こそぎなぎ倒す。
「Canthare Jus cibariun!」
砕けたが倒れた。多少破片が地中に残ったかもしれないが、もはや細かい事まで気にしている場合ではない。
あと二本。恐怖は焦りになってアスタロトを突き動かした。
紫玉が活発化している。空間が変わろうとしているのだ。あともう一歩のところにきて!
「Sarcodon aspratum 」
続けて出来る限りの早口で呪文を唱えると、円柱を掴み、そのまま体重をかけて押し倒した。もはや振動も何も配慮は無用だった。
紫玉の光が強くなる。
あと一本。なんとか体勢を整えながら、アスタロトは重い足を引きずりって立ちあがった。
不透明な部分は燦然と光を放ち、いまにもはちきれそうだった。
斜めにつきささっているパイプの下で、その光は生き物のように波立った。
もう一刻の猶予もない。
だが、激しい息切れで声が出ない。咽まで呪文はでているのに、喘ぐ息が邪魔して声にならない。
「……esu leisfiiip 、uri……」
かすれた声がようやく呪文になりかけた時。
ばぁん!と不透明な部分が弾けた。
その光のあまりの強さに、まったく目が見えなくなる。
その強烈な白さは、視神経が焼き切れるほど乱暴に瞳孔に刺さった。
頭の中を針金で掻きまわされているような苦痛に襲われる。
これは間違いなく天界の空間だった。
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