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「大魔王様!返事をして下さい!」
ショウはもう一度、思いきり叫んだ。返事はなかった。風の鳴る音だけだ。
ショウは目をつぶった。
落ちつけ。よく考えろ。
何が変わっているか思いだしてみるんだ。
大魔王様は、封印塔を壊した。あの銀の円柱をちゃんと最後まで外したじゃないか。そうだ、あの銀のパイプは何処へいったんだ? あれだけ大きな円柱が大量に転がっていたのに消えてなくなるはずがない。
そもそも紫玉はどうした?
魔界にあるタルタロスがジュヌーンと同じ空間に変化してるのは明らかに紫玉の力だ。
ショウはハッとして下に目をむけた。絶え間なく吹きあげる風に、この砂の量。
……ひょっとして埋まっている……?!
ショウは、がばと地面にひれ伏した。今度は地下を透視する。
あまりに集中しすぎて汗ばんできた。瞬きの間も惜しくて根気強く地下を探し続ける。
「あ……」
さほど遠くもない場所に、地面のわずか下、数十センチほど砂をかぶって、倒れている人影がみえた。
「大魔王様っ」
ショウはすぐさま立ち上がって瞬間移動した。走ってもいける距離だが、気持ちがはやって移動していた。
おそらく紫玉が変化した時の波動で、その周囲から砂が波のように翻ったのだ。地下にはアスタロトを手こずらせた円柱も埋まっている。そしてその中心で倒れているのは背格好からアスタロトであることは間違いない。
ショウは着地し、あわただしく呪文をとなえると、地面に向って息を吹きかけた。砂が飛び散る。アスタロトは、ぴくりとも動かず、石のように横たわっていた。
「だ……大魔王様……」
新品だった黒の着衣は見る影もなくあちこちに穴があき、砂にまみれていた。腕も足も顔も傷だらけで、血で赤黒く固まっている。顔色は白を通りこしてもはや灰色に近く、唇や爪にも血の気がなかった。
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