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アスタロトの声は途切れがちだったが、口調は勝気を崩さなかった。
ショウはようやくここに来られた理由がわかった。同一次元間でも瞬間移動できなかったのは、タルタロスの森が紫玉の結界として如何なる侵入をも阻んでいたからなのだ。
だから封印塔を破壊し、それに伴い結界の線引きをしていた強固な壁が消失した結果、移動が可能になったのである。
納得はしたが、あまりにもアスタロトに自分の行動を読まれていて悔しさを感じる。
「紫玉はどうなったんですか?」
ショウは、はた、と思いついてあたりをみまわした。アスタロトはずっと固く握っていた左手を開いてみせた。手の中には小さな紫色の玉がのっている。その紫色は深く透明で、動かすたびに光の加減で濃淡が交じり合った。
「紫玉だ」
アスタロトは嬉しそうに微笑んだ。
あの最後の一本、無理矢理体重をかけて倒した瞬間に封印はとけた。
同時に封印を解いたアスタロトが紫玉の主となったのである。
危機一髪だった。
しかし、紫玉さえ自分のものになってしまえば、どの次元に変化しようが紫玉が主を守るため無敵である。
実際、あの銀の円柱が地についた瞬間から天界空間の猛烈なまぶしさなど、軽い日射し程度にしか感じなくなってしまった。微弱ではあったが保護魔法も切れていなかったのも幸いした。アスタロトは何とかギリギリで消滅せずに済んだのだ。
ただ、寸前まで激しくダメージを受けていたため、それまでの負傷が深刻である。
「さっそくお前が来られるようにタルタロスをジュヌーンと同じ空間にしてみた。念じただけで変わるんだ、便利だ。はは」
「笑ってる場合じゃないですよ!!」
ショウはのんきなアスタロトにくってかかった。
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