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「あなたは置いていかれるのは嫌だといったが、そんなの私だって嫌ですよ。勝手に消えて終りなんて無責任もいいところです。全然カッコよくなんかない。これからは必ず私を巻き込んで下さい。いいですね」
アスタロトは、無言でショウの言葉を聞いていた。その返事をちゃんと聞きたくて、ショウは責めるようにアスタロトを睨んだ。
「……わかった。心得る」
アスタロトはようやく静かに呟いた。
「ありがとうございます。では参りましょう。とりあえず公爵邸でよろしいですか」
「魔王が天使にかかえられて魔界の空を飛ぶのか? 天界も魔界も大騒ぎだ。しかもそんな事をしたら俺が紫玉を獲ったってバレバレだ」
「それでは、ジュヌーンの別荘においでになりますか?」
「それもいいが、今はまだだ」
「何故です。充分な治療ができるのはこの二ケ所の他はないですよ。いくら何でも天界では目立ちすぎてしまう」
「誰が天界くんだりまでいくんだ。人間界だ」
ショウはあきれて目をみはった。
「はぁ? 芳賀屋ですか? あんなボロ屋じゃ治るものも治らないじゃないですか!」
しかし、唖然とするショウを尻目にアスタロトはさっそく紫玉を使っている。
「よし、俺たちの周りだけは人間界の空間に変化した。悪いがショウ、さっそく瞬間移動してくれ」
「わかりましたよ」
ショウは渋々了承してアスタロトを抱きかかえた。アスタロトの体は熱くて、体内の炎症から発熱しているのは明らかだった。
もう、とにかくどこでもいいから早く手当をしなければ。
ショウはかたく決意する。
呪文を唱えると、全身に空気の圧をかんじた。さすがに魔界から一足飛びに人間界への移動となるとそれなりに負担がかかる。
まるでタルタロスの最後の咆哮のように耳元で風が唸った。そして次の瞬間、魔界から二人の姿は消えていた。
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