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3-14 芳賀屋
その頃、克己は未だ料理にトチ狂っていた。
ショウからの通信は途切れて久しく、アスタロトの様子は全く伝わってこない。わからないだけにじりじりと不安はつのり、克己はそれを紛らわすのに必死だった。
茶の間のちゃぶ台の上、さらに台所のダイニングテーブル、作業台、冷蔵庫の中、とにかく置ける場所に置ける限りの料理が並んでいる。
にもかかわらず、ガスレンジにはまだ調理中のナベやフライパンがかかり、オーブンでは肉、グリルでは魚が焼かれていた。
太郎遅いな……いや、魔界から飛んでくるんだからちょっとぐらい時間がかかって当たり前だ、大丈夫。そろそろ帰ってくる。うん。
雑念を払おうとキャベツを手に取る。手持無沙汰な克己は千切りを始める。
ズダダダダ……千切りは無心になるのにちょうど良い作業だが、これをどう食べるかというあてはない。
たちまち増えてどでかいボール一杯分。あきらかに付け合わせの範疇を超えている。克己はてんこもりのキャベツから目を逸らす。
大丈夫、マヨネーズでもしょうゆでもかければ食べられる。なんならお好み焼きにしたっていい。
……ふう。
そうはいってもひとまずこれをどう冷蔵庫にしまおうか。思わずため息をついたその時だった。
「はいるぞ、失礼っ!」
だしぬけに玄関の戸があき、切迫したショウの怒号が響いた。
克己は大慌てで玄関の方に走った。
「ショウ?! 帰って来たの?」
「克己、早く! 大魔王様が」
かけつけた克己は、心臓が止まりそうになった。
血相を変えて、とびこんできたショウの腕にはアスタロトが抱かれている。別人のように目をギラつかせたショウも恐ろしかったが、血の気のない顔で微動だにしないアスタロトはそれよりもっと怖かった。
「移動の途中からみるみる悪化して意識が戻らない」
「太郎!」
克己は気が動転して、いきなりアスタロトに掴みかかった。
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