207人が本棚に入れています
本棚に追加
悪魔は天使の横をすり抜けて歩き始めた。天使は慌ててそれを追う。
「なぜ御身分を隠してまで、人間なんかと付き合うんです。おふざけも大概になさいませ。大体、いつまでも騙せるわけじゃないでしょう。実際、今日だって自分で名前を名乗ったんだし」
「仕方ないだろう、封印には実名を使わなきゃならないんだから! だからってそれが四大魔王かどうかなんて克己にわかるはずがない。私だっていずれ話すつもりだった。ただ、時期を見ようと思っていたんだ。それを勝手に暴露するなんて、お前のやった事は出しゃばりもいいところだ。ましてあんな嫌味な言い方」
「釘を刺したんですよ! 今朝、大魔王様は克己に回復魔法を使っておられた。人間はすぐに味をしめる。これから克己はあなたの魔法をもっと利用しようとするでしょう。そうなる前に」
振り返った悪魔は悲しげだった。
「お前はいつもそういう風に考えているのか?」
軽蔑を含んだ口調に、天使はびくりとした。
「ならばお前が私と長年つき合ってきたのは下心があったからか。お前なら私の肩書きを充分利用できるだろうしな」
「侮辱です! 私と克己は違う。私は大魔王様を案じてるだけだ」
「違わない」
悪魔は天使を睨みつけた。
「お前は有能な上級天使で能力も高い。しかし、だからってお前の思うことが全て正しいとは限らない。少なくとも今のお前に克己の気持ちはわからない」
「なぜそう言い切れるんです。安易に信じて傷つくのはあなたですよ」
天使は思わず悪魔の腕をつかんだ。だが、悪魔はその手を振り払った。
「言い争ってるヒマはない。仕事だ。今日はあと九ヵ所まわらなくちゃならない」
天使は唇を噛み、そのまま悪魔の後ろをついていった。
最初のコメントを投稿しよう!