1-1 人間界

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 どうすりゃいいんだ……俺はお経も知らないし霊感だってカケラもない。ただの一般人が和洋混合の妖に対抗できるわけないじゃないか!  一応、騒ぐ年寄りに呼ばれ出没するポイントにも行く。しかし手も足もでない。現実的に対処しようにも、火の玉を消すのに消防を呼ぶのは筋違いだし、狼男を捕獲しても保健所が引き取ってくれるかどうか。そもそも説明した段階で克己の方が病院を紹介されそうだ。  今日もまた吹雪を纏った女性の徘徊情報が寄せられ、頭が痛くなるばかりである。  絵空事のようではあるが、これらの報告はどれも紛れもない事実だった。地域住民が疲れ果てているわけでも見間違えたわけでもない。  そして克己自身、この不思議な現象に覚えがあった。  克己はため息をついて窓の外を眺めた。  季節は早くも夏になろうとしている。克己は青々とした庭木に目を細め、発端の出来事を思い出していた。  あれは、まだ春の底冷えする夜のこと。  言うなればそれは間の悪い事故だった。  村の寄り合いの帰り道、酔っ払っていた克己は千鳥足、その前方にふらふら飛行のカラス。両者とも避けるべき反射神経が全く働かない状態で吸い寄せらせるように激突したのである。  克己は悲鳴をあげて尻餅をついた。結構な衝撃で目の前がチカチカした。幸い怪我はなかったが、地面に落下したカラスはぐったりして動かない。責任を感じた克己は急いで家に連れて帰ったのである。  ひとまず座布団の上に寝かせてみたが鳥の世話はしたことがない。宿の温泉は体にいいと評判だが、瀕死のカラスをお湯に浸けたらさらに弱るだろう。考えた末、ひとまず部屋をあたためようとストーブをつけた。  その時だった。  背後でもくもくと白煙が湧きあがり、振り向くと絶世の美青年が座っていたのだ。
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