1-8 経緯

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1-8 経緯

 四方を山でかこまれた箱庭のような村。  この村の上空は魔界気流・天界気流ともに荒れ狂う危険区域である。 「最悪の立地だ。よくこの村が存続していたものだ」  芳賀屋にて、天使は人間界に来る前に搔き集めた調査書類に目を通していた。  悪魔が引き金になったとはいえ、天魔が混沌とするのもやむを得ない環境である。山の重なり具合が鬼門に当たっているうえ、流れに逃げ場がない。必然的に瘴気を溜める地形なのである。 「そりゃあ妖も育つはずだ」  天使は呆れて呟いた。手にはちゃっかりお握りである。炊飯器に残り御飯があったのを幸い、勝手に握り、食べながら資料を読んでいた。  天使はすらっとした外見の割に大食いなのである。とにかく一日歩き回ったので空腹だった。悪魔は仕事に夢中になると寝食を忘れる性質だが、天使はしっかり食べたい派なのである。  大魔王さまは昔から休憩の概念が欠落してるんだよな。  早くも二つ目のお握りに手が伸びる。  天使は水晶玉を取り出し、資料の上に置くと呪文を唱えた。するとドラマのようにこの土地の歴史が水晶の中に浮かび上がってきた。むぐむぐと食べながら村の歴史を観察する。 「なるほどな……」  飢饉や戦が起きれば、土地は死者の無念の気を吸い上げる。普通なら時間とともに浄化されるが、この土地では不幸な瘴気は消えることなく増悪するばかりだ。瘴気が増大すれば、不安定な気流にも影響する。激しく乱れると決壊し、天魔の住人が迷い込む。 「つまりここには地元産の魔物と、外部からの侵入者がいるってことか」  村人はその都度、対策を講じてきた。しかし人間の力では根本的な気流の修正は勿論、魔物を滅するほどの力はない。  彼らはひたすら封印し祠を建てた。村の大きさの割にやたら祠が多いのは、数々のトラブルの名残である
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