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「昇、克己の気配がない」
「でしょうね、攫われたみたいです」
「攫われた? 何でそんなに冷静なんだ!」
「よくある展開ですから」
淡々とした天使の反応で悪魔の額に青筋が浮かんだ。天使は悪魔にもお握りをすすめ、渋茶を淹れた。
「まあ、落ち着いて下さい。そんなお疲れの状態で突進していったら敵の思うつぼでしょう。子供みたいに不貞腐れないで下さいよ」
「別にいじけてる訳じゃない。克己がいなくなったのがわかった時点で、どうして私を起こさなかったんだ!」
悪魔は言葉とは裏腹にむくれ顔で怒鳴った。
しかし、付き合いの長い天使はさすがに慣れている。彼はきちんと正座をしたまま、真っ直ぐ悪魔に視線を据えた。
「黒幕の正体がわかっていなかったからです。私たちは今回、単に結界修復にやってきたつもりでしたが、どうやらそれだけでは済まないらしい。どうやらその魔物に縄張り荒らしをしていると誤解されたようだ。もしくは魔物が自分も捉えられると危機感を抱いたか。まあ、その通りなんですけど」
「……ああ」
「とにかく、向こうにとって克己は大事な切り札です。うかつに傷つけたら取引に不利になりますから無傷でしょう。ですから私としては黒幕の正体を調べ直す間、大魔王様には休んでいて頂いた方がいいと判断致しました。これから一騎打ちなのに体力切れでは話になりません」
理路整然と言われ、やや頭の冷えた悪魔は天使の差し出したお握りに口をつけた。
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