1-9 魔性

1/10
前へ
/348ページ
次へ

1-9 魔性

 さて、多少時間は前後する。  家の周りの結界が壊れた瞬間、克己は凄い力で土の中にずぶずぶと引きずり込まれた。  まるで底無し沼だった。  今まで確固たる地面だったものが液状化し、体は見る間に沈んでいった。手をばたつかせながら完全に土の中に沈むと、息が続かなくなって頭の中に霧がかかった。  やば……死んじゃうっ……  暗転。気がついた時には薄暗い穴の中で寝かされていた。 「あれ……ここは?」 「気づいたパカか」  ……パカ?  おそるおそる体を起こすと、克己は目の前の生き物に釘付けになった。  金色の目、ふわふわの毛皮、長くて太い首、ぷるるっと震える茶色の耳。あまりに全身が毛で膨れていて足が短くみえる四足動物。  答えはすぐに浮かんでいたが、脳が理解を拒否していた。消去法で自分を説得する。  いいか、これはえっと……馬じゃなくて、ラクダでもない。だからつまり、羊でもヤギでもなくて……あれだ。アルパカだ。どうみてもアルパカだ。  正解の異常さに克己は動揺する。しかしアルパカはその動揺を畏れと勘違いしたらしく、ぐっと胸をそらした。 「まあまあ、ワシの威風堂々たる姿に怯える事はないでパカ。ここはあかね山の山奥。お前は誘拐されたんさ。本当は、こういう事はしたくなかったけど、事情があってごめんパカ」 「その話し方、もしかして本物のアルパカだよね!?」 克己は名探偵のように鋭く切りこんだが、本物なら基本的にしゃべらない。言われたパカも呆れて首を横に振った。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加