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パカは差し出した悪魔の手に、前足の蹄を乗せた。
「するパカ。わし、契約するパカよ」
「よし成立だな」
パカは長い首をねじり克己を振り返った。
「ありがとー、克己殿の言ったとおりだったね」
「だろ?」
克己は笑顔でパカを抱きしめた。悪魔もパカを撫でる。パカの毛並みは素晴らしく一度触ると離れがたい。極上のふかふかである。
「一人でよくがんばったな。結界だけ直すからここから離れろ。あとは今まで通り自由にするがいい」
契約の手続きを終え、悪魔はパカに何気なく言った。
「そういえば、克己は元々この村の人間じゃないだろう。人が好さそうだから迷わせて引き留めたのか?」
「克己殿は温泉に泊りにきた客だったはずパカ」
「そうか、それから居ついたか。私もつい長居したぐらいだからな」
「芳賀屋の温泉は知る人ぞ知る霊泉パカよ。太郎殿もゆっくり入るといいでパカ」
パカは嬉しそうに尾っぽをふって消えた。いよいよ準備完了である。悪魔は大きく伸びをした。
「それじゃさっさとやるか。このまま結界を全部閉じてしまおう。いいだろう?」
「私は早急に決着がつきさえすれば異論はないです。早くしないと朝食の時間に差し支えますのでね。まあ、あと三つぐらいなら朝までに終わるでしょうから」
悪魔はさっそく呪文を唱え始めた。
「kJiiioppp juekoi mktrei wooophdften ……」
どことなく重苦しかった空気が徐々に澄み渡っていく。
天使と克己はその様子を無言で見守った。
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