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1-10 克己
最後のポイント、森の洞窟の結界を閉じると村にあれほど出没していた天界魔界の生き物はきれいに消えていなくなった。
夜明けの道を天使と克己が二人並んで歩いている。
洞窟は天界気流のポイントだったため天使が対応した。生き物を天界に戻し、結界を閉じた事で今回の仕事は完了である。
「太郎さ、一人で先に帰っちゃってずるいよな」
「仕方ないんですよ、悪魔は太陽の光が苦手ですから。それに私が清めたとはいえ、どうしても早く温泉に入りたいらしいし」
「太郎、風呂好きだもんなー」
「大魔王様は昔からちょっと潔癖症のきらいがありましたからね」
「へー。昇はずっと太郎の世話してたの?」
「お互い寮暮らしだったから、なんとなくそういう流れになっちゃったんですよね。基本的には同学の先輩後輩で雇用関係とは違います。大魔王様はとにかく身の回りのことに無頓着で……魔法技術が飛びぬけてたので信奉者は多かったですが」
天使は学生時代を思い出し、肩をすくめた。神経質で好き嫌いが激しい。その気質は今も変わらない。
朝日を浴びて何もかもがキラキラしている。
まるで生まれ変わったような朝だった。
克己は田んぼや畑が風で翻るのを眺めた。あれほど収集のつかなかった事態が、全て元に戻っている。それは全て悪魔の魔法のおかげなのだ。
克己は天使に尋ねた。
「結界直すのって、大変?」
「そうですね。並みの悪魔なら一年がかりの仕事だったでしょうね。今回はそれでも少し集中力が落ちていたのでいつもより手間取っていた気がします」
「やっぱ、暑いの駄目なんだ」
「ええ。でもそれだけじゃなくて、私が克己殿の事をいろいろ言ってしまったので心中穏やかじゃなかったんですよ。昨日は克己殿への態度を叱られました」
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