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「あつかましいんですが、三つの願いの件で頼みがあります」
「なに?」
「それ、最後の一つはずっと叶えないでいてくれませんか。何なら、その分は私が叶えてもいい」
「どうして」
天使は急に真面目になって、ゆっくり話し始めた。
「大魔王様ってわがままぶってるくせに、意外に繊細なんです。人嫌いの寂しがりって言うのかな。誰かに心許すって事がまずなくて。でもその分、一度身内認定するとすごく親身になって肩入れしちゃうんですよね。そのくせ慣れてないから、約束とか用事とか、口実がないと遊びにくるタイミングもろくにつかめないんだ。だから、克己殿、あの人に理由をつくってやって下さいませんか。あなたが大魔王様を疎んじたりしないのはわかっていますが、理由があれば悩む事なくここに来られる。駄目でしょうか」
天使は真剣だった。口やかましい堅物だが、この人もこの人なりにいろいろ考えているのである。克己は明るく笑った。笑うと八重歯がのぞく。人のいい笑顔だった。
「昇って怖いやつだと思ってたけど、そうでもないんだな。いいよ、引きばして一生考えてるよ、願い事。だって俺だって太郎と繋がっていたいもの。こうしてやっとまた会えたんだし」
「恩にきます」
「そのかわり昇もいつでも泊りに来て。太郎も嬉しいと思うし、芳賀屋も潤う。な?」
克己は大きくのびをすると、だだだっと走り始めた。
「早く家に帰ろ! すいか冷やしといたんだー」
駆けて行く克己が明るい田舎の景色に溶けてしまいそうで、天使は慌ててあとを追った。
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