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「実はな、魔界から人間界に来るには特殊な魔法で道を開くんだが、その時に、次元の波が大荒れで巻き込まれてしまったんだ。どうにか脱出したが数百年ぶりの人間界ときたら地面のあちこちに固い柱が突き出てるわ、びりびりする謎の紐が仕掛けられてるわ」
「たぶんそれ電柱と電線」
「空気は悪いわ寒いわド田舎だわ間抜けな人間がぷらぷら歩いてるわ」
「なんだよ! 電柱に当たって電線に絡まって、俺にもぶつかるなんてそっちの方が間抜けじゃん!」
「無礼な! 貴様、俺を誰だと……ごほごほごほごほッ」
怒鳴った勢いも空しく悪魔は激しく咳き込んだ。反射的に克己は背中をさする。触れると悪魔はかなりの高熱だった。
(魔物も風邪を引くんだな)と克己は妙なところで納得し、効果があるか不安だったが白湯と薬を差し出した。
「すまない。お前の親切は忘れない。ところでお湯が熱すぎるし、もうちょっとマシな布団を出せ。できれば羽布団で頼む。ふかふかのやつな」
礼を言いつつも図々しい悪魔に従い、克己は床を整えた。宿なので布団はたくさんある。横になるや否や悪魔は眠りにおちた。
余程疲れていたのか悪魔の眠りは深かった。眠り続ける悪魔の傍らで、克己はしばらくこの異常事態に緊張していたが、そのうちに生来ののんびり気質が勝ってどうでもよくなってきた。どうせ追い出せるわけもないのである。
綺麗な顔してるなあ……
額に冷却シートを貼りながら、しみじみと思う。眺めていると何となく情も好奇心も湧いてきて、看病しながら想像が膨らんだ。
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