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「私は大魔王だ。命を七つ持っている。別に一つぐらい減ってもどうという事はない」
「でも……」
それでも迷う克己の横で天使が肩をすくめた。天使は悪魔が言い出したら聞かない事を知っている。
「気前がいいですね、大魔王様。まあそのつもりだとは思ってましたが」
「だって克己が生きていないと芳賀屋に泊まれないじゃないか」
「確かに。そうなると私も困ります。この家の雑な飯は悪くない」
「だろう。お互い人間界に定宿を持っていた方が便利だしな」
「それじゃさっそく契約の交わし直しと参りましょう。私も手伝いますから、ちゃっちゃとやりましょうよ。結構、寿命の残りがギリギリでしてね、早くしないと死んじゃいます。本名の芳野克己で契約書を作りますね」
「それだけじゃダメだ。克己が先に交わした契約を解約しないと私と契約できない。記憶操作のせいで、その相手が誰なのか読み取れなくて様子をみてたんだ」
「だから結界の修復、あんなに気を使ってたんですね。うっかりその相手を消滅させたら永遠に解約できなくなりますもんね。おかしいと思ったんですよ。いつも残虐非道なのに」
「人聞きが悪い。私はいつも効率的に殺戮してきただけだ」
悪魔と天使は勝手に納得して話をまとめた。天使が書類を魔法で空に浮かび上がらせている間に、悪魔は庭に声をかけた。
「もういいぞ、話は済んだ」
つくばいの後ろから蛇がひょっこり顔を出した。どこか申し訳なさそうに克己を見ている。そしてしゅるしゅると体をうねらせて縁側に上がると、克己の隣に寄り添った。
初めてここに来た日と同じだった。ひんやりした感触があの日の記憶と重なる。
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