1-10 克己

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 ……私の力でお前を守れるのはここまで……    蛇は赤い目で克己を見上げた。頭の中に直接声が響いてくる。克己は前かがみになって蛇と向かい合った。  「ありがとう。俺のこと守ってくれてたんだね。いつも庭にいたもんね。俺、おかげで全然苦しくなかった。あの日まで怖くて毎日泣き出しそうな気持ちで生きてたのに、今日まで全部忘れちゃってたよ。本当にありがとう」  蛇神と悪魔の間ではすでに話がついていたようで、蛇は克己の膝上を通過して、そのまま庭に戻っていった。  まもなくだった。  克己の全身に言い様のない倦怠感が襲った。さっきまでの健康的な肌色が黒く淀んで乾いていく。本当の体調はここまで悪化していたのだ。 「……ふ……っ」  息をするのも苦しい。座っていられず、ずるりと縁側に横になる。空と庭の緑が交じり合って、蜃気楼みたいに揺らいでいる。  悪魔の声が聞こえた。 「蛇神との契約が終了した。今こそ三つの願いを叶える」  Kksiheuuten isijouyyute tuukiggte gyuiie……  呪文とともに意識が遠くなった。景色がクルクル回り始め、いきなり暗転した。  蝉の声で気付いた時にはすっかり日が落ちていた。  芳賀屋には悪魔も天使もいなかった。  ただちゃぶ台に宿代と書かれたメモと石ころが置かれていた。
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