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……私の力でお前を守れるのはここまで……
蛇は赤い目で克己を見上げた。頭の中に直接声が響いてくる。克己は前かがみになって蛇と向かい合った。
「ありがとう。俺のこと守ってくれてたんだね。いつも庭にいたもんね。俺、おかげで全然苦しくなかった。あの日まで怖くて毎日泣き出しそうな気持ちで生きてたのに、今日まで全部忘れちゃってたよ。本当にありがとう」
蛇神と悪魔の間ではすでに話がついていたようで、蛇は克己の膝上を通過して、そのまま庭に戻っていった。
まもなくだった。
克己の全身に言い様のない倦怠感が襲った。さっきまでの健康的な肌色が黒く淀んで乾いていく。本当の体調はここまで悪化していたのだ。
「……ふ……っ」
息をするのも苦しい。座っていられず、ずるりと縁側に横になる。空と庭の緑が交じり合って、蜃気楼みたいに揺らいでいる。
悪魔の声が聞こえた。
「蛇神との契約が終了した。今こそ三つの願いを叶える」
Kksiheuuten isijouyyute tuukiggte gyuiie……
呪文とともに意識が遠くなった。景色がクルクル回り始め、いきなり暗転した。
蝉の声で気付いた時にはすっかり日が落ちていた。
芳賀屋には悪魔も天使もいなかった。
ただちゃぶ台に宿代と書かれたメモと石ころが置かれていた。
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