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悪魔はペガ子から降りて翼を広げた。
「大魔王様、」
「なんだ」
振り返った悪魔に、天使は馬上から声をかけた。
「本当は、初めから克己に会いに人間界に行ったんでしょう? 昨日克己と話していて、もしかしてと思ったんです。転生待ちしてましたもんね、ずっと」
悪魔は無表情に、さあな、と濁した。
「それより次はいつ頃行く? 克己の三つ目の願い叶えてないだろう、しょうがないから時々様子を見に行かなきゃならん。アイツは呑気だからこっちから言わないとすぐ忘れるんだ。本当にしょうがない」
やけに嬉しそうにしょうがないを連発する。天使は微笑んだ。今はまだ、これ以上の追及をするつもりもなかった。
「そうですね、秋祭りの頃に調整しましょう」
悪魔が手を振った。ペガ子が飛翔する。二人はそれぞれの世界へ羽ばたいた。
魔界の気流に長い髪をなびかせながら悪魔は芳賀屋に思いをはせる。
縁側で寝転がりながら聞いた音、目に映る緑。
台所に立つ克己。
川のせせらぎ。波のように翻る木々の葉。
温泉から響いてくる村人の笑い声。
悪魔の心に広がる沢山の光景。
それは多分、魔性であるパカや蛇神が愛した光景に等しい。
きっと彼等は今日も耳を澄まして人々の生きる音を聞いている。
風の渡る音にまで。
水の流れる音にまで。
【 1部・完 】
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