2-1 ジュヌーン

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2-1 ジュヌーン

 一年中桜の咲き乱れる、中立都市ジュヌーン。  そこに大々的に門を構える魔天学院では、天使悪魔のエリートたちが日夜勉学にはげんでいた。  この学院に入学するには、魔界の魔界大学、天上界の神学院で成績優秀者として選抜されなくてはならない。それゆえに彼らは高いプライドを持ち、将来の三世界を担うべく切磋琢磨していた。  とは言うものの、今はまだ学生で羽をのばせる貴重なひとときである。  まして区切り目の試験期間が終わり、数日後に長期休暇を控えているとなれば学内は明るい解放感に包まれていた。  しかしそんな中、学内の一角で思いがけない申し出があった。 「ほう……研修か」 「ええ。なるべく早く進級したいものですから、休みを利用して単位を取ってしまおうと思いまして」  天使は神妙な顔で頷く。選抜試験で優秀な成績をおさめた今年期待の新入生である。勤勉で真面目、すらっとした体格に涼しげな顔立ち。何より教授たちの評判もよい。 「感心なことだが、どうしたもんかのう」  しかし、相談をもちかけられた教授は思案顔である。  というのも、研修は数週間にわたって人間界に行く必要があり、実習経験のある上級生とペアを組まなければならないのだ。  長期休みともなると里帰りする学生がほとんどで、学院は既にがらんとしている。残ってる学生に声をかけたとして、自分の休みを潰してまで実習に付き合うような物好きはまずいない。 「いけませんか」 「いやぁ……いけなくはないが、手頃な相手がのう」  渋い顔で教授が黙り込む。天使は直立不動のまま回答を待っている。  長い沈黙で空気が重くなってきたところで、けたたましい足音が近づいてきた。何事かと顔を向けると、そのままドアがバン!と開き、山のような書物を抱えた悪魔が飛び込んできた。 「教授、見つけましたよ、例の文献!」 「おおっ」  思わず立ち上がった教授の目の輝きを誤解して、悪魔は誇らしげに書物を机に置いた。
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