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「ほーら、だから言ったでしょう。書庫の第三室ですよ。その奥の鍵つきの棚で見た気がしたんです。約束ですよ、あの神業みたいな変身魔法を教えてくれるって」
「そんな事は後だ、紹介しよう」
教授は満面の微笑みでショウの腕を引っ張った。そこでようやく悪魔は天使を認識し、露骨に眉をひそめた。
「誰ですこれ」
「紹介しよう。彼はショウ・マキ。勉強熱心な生徒で、この休みに研修に行きたいそうだ。お前ついていってやりなさい」
悪魔は猛然と反発した。
「ちよっと待って下さい教授! 俺にだって予定が」
「お前、魔界には帰らんじゃないか。寮に残ってだらだらするより余程いいだろう。ん?」
「済ませなきゃならない研究課題があるんですー!」
「お前ならそんなものあっという間だろう。いいから付き合ってやりなさい」
悪魔は乱暴に髪を搔きむしった。教授はおっとりしているが、いったん口にしたことはテコでもまげない頑固者なのである。
悪魔はそもそもの元凶であるショウを睨んだ。容赦なく目線が上下する。ショウはどきまぎしながらその視線に耐えた。不愉快になるより先に、悪魔がショウを驚かせるに充分な人物だったからである。
上級生のなかでもことに有名人のアスタロト・セイ。
教授陣すら舌を巻く魔法技術で入学以来、年間優秀成績賞をとりつづけている化け物である。しかし、その一方で言動の辛辣さや、気難しさでも有名だった。アスタロトは心底迷惑そうに言った。
「研修? 今? どうしても?」
「あ、はい」
「何で?」
「早く単位が取りたいので。お願い致します」
ショウは深々と頭を下げた。そのまま意思表示の代わりにじっと動かずにいる。ショウは微動だにしなかった。しばし場は膠着したが、この圧に負けたのか、教授に睨まれたのか、悪魔は大きな溜息をついた。
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