2-1 ジュヌーン

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    「しょうがないなー、もう! わかった、行くよ、行けばいいんでしょ」 「よく言った! 君、アスタロトはこれで案外頼れるヤツだからの、安心して研修に行きたまえ」  すかさず教授が満足気に頷く。  さっそく書類の手続きを進めるからと言われ、ショウとアスタロトは研究室の外に出されてしまった。一緒に散歩でもして、親睦を深めるようにと言うのである。  粋な計らいのようだが、無理やり頼みこんだ後だけにむしろ気まずい。  桜が散って、地面はピンク色に染まっていた。  馬鹿正直に桜並木の下を歩きつつ、寮にむかう。雰囲気はとても良いのだがアスタロトは不機嫌を隠そうともしない。 「あーあ、誤算もいいところだ。長期休暇は年に一度しかないんだぞ」 「……すみません」 「悪魔は普通、ボランティアなんかしないんだ。今からでも取り下げろ」 「……それは致しかねます」  適当に謝りつつ、ショウはちらちらと隣を見た。  歩調に合わせて腰までの長い黒髪が跳ねるように揺れる。口の悪さより整った横顔から目が離せなかった。アスタロトは入学式で在校生代表として舞を舞ったが、気のない義務参加をしていたショウでさえその美しさに息を呑んだ。女神かと思ったら悪魔で二度びっくりしたのである。 「お前、何か言いたいことがあるなら言えよ」 「……え?」 「人の顔、じろじろ見て何だよ」 アスタロトは立ち止まるとショウに向き直った。 「私は、別に」 言葉を濁したショウに、アスタロトは苛立ちを露わにした。 「その上っ面な返事が気に入らないんだよ。さっきからロボットみたいな受け答えばっかしやがって。つまんねえやつ!」  そんな子供みたいな喧嘩売られても……とショウが半ば呆然としていると、アスタロトはくるりと背をむけた。
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