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2-2 寮
Zカードの効果は抜群だった。
あれから数日。研修日程の通知が届いたショウは、上級生の宿舎を訪れた。カードをかざしただけで扉は簡単に開き、するりと中に入ることができた。
さて、部屋を探さなければ。
一階のホールには案内板がある。さっそくショウは部屋番号と名前に目を走らせた。
アスタロト・セイ、アスタロト……
探しながら、これほど名前と顔がイメージに合うのも珍しいと思った。
権力者にあやかってその名前を子供に付ける事はよくあり、天上界ならミカエルやラファエル、魔界ならベールやベールゼブブは最もポピュラーな名前である。しかし大抵は名前負けに終わるが、アスタロトに関しては申し分なかった。
将来、本当に四大魔王アスタロト様になっちゃったりしてな。
ショウは魔族の正装したアスタロトの姿を想像して笑った。現魔王よりよっぽど似合うと思ったのだ。
……あ、やっとあった。
これか……ってこれでいいのか?
ショウは再度、部屋番号を確認した。
最高学年でもないのに最上階に部屋をもらえるなんて聞いたことがない。だが明らかにアスタロトの部屋は宿舎のなかでもスイートにあたる部分に位置しており、彼が別格の扱いを受けていることを証明していた。
つい手の中のZカードを握り締めてしまう。
と、そこへ。
賑やかな足音とともに、スーツケースを下げた一団が中央の大階段から降りてきた。とっさのことで身を際す暇もなかったショウは彼等とばっちり顔を突き合わせてしまう。
とりあえず黙礼したがそれだけで済む訳がない。なにしろショウがアスタロトと研修のペアになった事はもう学院中に広まっていたからだ。
「よう。さっそく御機嫌伺いか。大変だな」
どことなく見覚えのある顔を思い出そうとする。だが、そんなわずかな沈黙すら気に障るのか上級生達は馬鹿にしたように肩をすくめた。
「俺たちなんかとは口もきけねーってか」
「いえ、失礼いたしました」
言いながら思い出した。見たことがあると思ったら彼等はアスタロトの取り巻きだった。ご機嫌取りをしている時のへつらい方と、アスタロトのいない時のふてぶてしさに落差のある連中である。さっそく獲物を見つけたとばかりに絡んでくる。
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