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「あいつは気難しいぜ。ここんとこずっと部屋に籠って返事もしない。お前もせいぜい気まぐれに振り回されないように頑張るんだな」
彼等はニヤニヤ笑いながらショウを取り囲んだ。
「御忠告ありがとうございます」
だが、ショウは動じなかった。エリートはやっかみに慣れている。その余裕がしゃくにさわったのか、そのうちの一人がさらに顔を近づけて凄んだ。
「お前、何にも知らないんだろう。良いこと教えてやる」
「いえ、私はもう、参りますので」
「待ーてーよっ」
ショウは進みかけたが、肩をつかまれて強引に引き戻された。
「あいつは親も親友も殺したくせに顔色一つ変えずにのうのうとしてるんだ。魔界では誰もが知ってる大事件を引き起こして」
馬鹿な、と思ったがさすがに顔色が変わった。上級生たちはその反応にようやく満足し、ショウから離れる。
「お前も殺されないようにな」
上級生の一人が捨て台詞を残すと、彼等はひときわ笑い声を響かせて出ていった。
ショウはとりあえずホッと息をつき、再びがらんとしたホールを見回した。
ショックをうけていないと言えば嘘になる。
だが魔界で親殺しは珍しいことじゃない。種族によって慣習は様々だが、倫理観より弱肉強食が前提の世界である。悪魔ほどのスキルがあれば、若年でも下剋上はじゅうぶんあり得る。だが悪ガキのような態度をとるアスタロトだが、陰惨な影は感じはしない。親殺しをするとも思えず、半信半疑のまま最上階まで上がり、部屋の前についた。
ドアをノックしても返事はなかった。
ショウは首をかしげ、今度は幾分強くドアを叩く。
「すいません、ショウ・マキです」
やはり返事がない。さっき上級生はずっと部屋に籠っていると言った。その言葉が本当なら、中にいるはずである。
……おかしいな。
アスタロトは気難しい。それは否定しない。だがショウの勘では根っからの悪人とも思えない。だからつい心配になり、アスタロトの怒りに触れるのを承知でドアを開けた。
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