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「失礼しま……うわっ!」
ビュンッと突風が駆けぬけた。
ドアにしがみつき、なぎ倒すような風をやりすごそうとするが、あまりの強さに体がちぎれそうになる。
「馬鹿! 何やってるんだ!」
頭ごなしに怒号が響いた。もちろんこの部屋の主であるアスタロトである。
「くそっ、これで一からやり直しだ」
アスタロトは苦々しく文句を言って部屋の中央のテーブルの足を掴むと、そのまま引き倒した。上に乗っていた皿が中味の液体とともに床にぶちまけられる。その瞬間、風がぴたりと止んだ。天使はへなへなと膝をついた。
「はー……今の何ですか?」
「説明しろって? 面倒をかけるのがよくよく好きらしいな」
「龍巻みたいでした。この部屋、閉めきってるのに」
へたりこんだショウを無理やり引っ張り上げ、アスタロトは口もとに人差し指をたてた。
「話は後。入った入った」
ドアを閉め、ご丁寧にロックまですると、アスタロトはようやく理由を説明した。
「異空間移動の魔法陣だよ」
「まっ……? そ、それは御法度では」
「そうだけど、だから?」
アスタロトはあっけらかんと言い、ショウに椅子をすすめた。といっても、さっきの風で、もとは優雅であったと思われる室内はゴミ溜め同然の惨状をしめしており、勧めた椅子は壁際でひっくり返っている。
それでもショウは室内の豪華さに目を疑った。シャンデリアに暖炉、広々としたダイニング。さすがに最上階の部屋だけあって内装も設備も学生寮の域を超えている。
アスタロトもわざわざ椅子をとってくるほどの親切心はないらしく、適当に座れ、と投げやりに言って床にしゃがみこんだ。
「新しい魔法定理を発見したんだ。理論的には完璧なんだがやってみるとイマイチでな」
「じゃ、今のはその実験だったんですか」
「ああ。今というか、お前と別れてからずっとやってる」
アスタロトは疲れをにじませ、ふーっと息をついた。
「ずっと? あれから? 食事は?」
うつむいているせいか、アスタロトの顔色が青白い。
当の本人はいかにも煩わし気にのろのろ答える。
「食事……? ああ、メシね。あれは面倒だな。実に面倒だ。そう思わないか、お前?」
ショウはあきれつつ額に手をやった。
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