2-2 寮

4/8

207人が本棚に入れています
本棚に追加
/346ページ
「食べてないんですね。信じられない」 「だってお前、大事な実験のここぞって時にメシなんか食えるか? 定理が完成するかもしれない瀬戸際なんだぞ。俺には理解できない」  ショウはまじまじとアスタロトを見つめた。屁理屈はともかく、熱中のあまり食事を忘れたのは明らかである。  世の中には世話を見る人と見られる人の二種類がいる。 人一倍気の回る性格のショウが、自らに無頓着な悪魔に出会ったのも何かの縁であろう。しかもショウは食事の優先順位が絶対である。 「食べる物を見繕ってきます。食堂は一階ですよね」 ショウはてきぱきと動き始めた。 「片付けるのはそれからです。少し休んでいて下さい」 すぐに部屋を出ようとするショウを、ものぐさな声が呼びとめた。 「ショウ、とかいったっけ、あのな」 「はい、なんですか」 「メニューだけどな、甘いのを一品つけてくれ。いちごのムースとかそういうのだ。それからメインは肉じゃなくて白身の魚。サラダのドレッシングはマスタードがきいてる方がいい。スープはコンソメ、パンは堅めのバケットでワインは白」 アスタロトはわざとらしく胃の辺りをさすった。 「別に食欲なんてないが、せっかく用意するなら食べることにする。美味いのを持ってこいよ。そしたら食ってもいい」  アスタロトの言い草に、偉そうな、とムッとしたがショウはそんな態度をおくびにも出さずに、わかりましたと微笑んだ。  数十分後。ショウが戻るなりアスタロトはすぐさま近寄ってきた。 「遅いじゃないか、待ちくたびれたぞ!」 「申し訳ありません、ちょっと材料と道具を取りに自分の部屋まで戻ったものですから」 「自分の部屋? わざわざ?」 「ええ」 ショウはキッチンに直行すると、袋の中から次々と品物を取り出して並べた。 「なんだそれは」 「魚とレタスとトマトとオニオンと生クリームといちごとぜラチンとワインとパンとマスタードとにんじんとコンソメの素です」 「原材料のように見えるが」 「パンとワインは加工品です」 「そんな事はわかってる!」 ショウは野菜を手際よく洗い始めた。
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加