207人が本棚に入れています
本棚に追加
/346ページ
ショウはまじまじとアスタロトの顔を眺めた。
「よく……」
生きてこられましたね、と言いかけて、逆に気付いた。
こんなにわかりやすく生活能力がないのに、あの取り巻き達は何をしているのか。普段甘やかすだけ甘やかしておいて、いきなり放置なんて無責任もいいところだ。
「この休暇中、お世話をかってでる方は、誰もいらっしゃらなかったんですか?」
少し、腹立たしい思いで聞く。
「いるさ、もちろん」
アスタロトは事もなげに言った。
「だが私が嫌なんだ。腹の内が読めないような奴を近づけたくはないし、本当は家に帰りたいのに我慢するような奴は気の毒で頼めない。そうすると結果的に残って欲しいのがいない」
「でも、あなたは一人で」
「何とかなるっていったじゃないか」
アスタロトはうるさそうに手を払い、魔法書を開いた。この話題は終わりらしい。
ショウは複雑だった。
頭のなかで想像していたアスタロトと目の前の人物とが上手く重ならない。何もかも恵まれた傲慢な存在だと思っていたけれど、それだけではない気がする。
できた料理はなかなかのものだった。
アスタロトは食欲旺盛だった。これまでよほど貧相な食生活だったのか、一口食べるごとに褒めまくる。
「美味いなー、今まで食べた中では一番かもしれない。味付けもいい。お前器用だな」
「いえ、そんな……そうですか?」
ショウは謙遜しつつも舞い上がっていた。手料理を褒められるのはショウにとって初めての事である。実は食事は私的な楽しみとして、これまで誰にも腕前を披露したことがなかったのだ。アスタロトの惜しみない賛辞はショウを有頂天にさせるのにじゅうぶんだった。
次から次へと平らげて食事もデザートにさしかかる頃、唐突にここにやって来た目的を思いだした。本題を忘れるなんて、しっかり者のショウにしては稀な事である。
「あのですね、」
話を切り出すといちごのムースに夢中になっていたアスタロトも、ん?、と顔を上げた。
「研修の日程ですが、二週間後の水曜日に決まりました」
「二週間後? けっこう間があくな」
アスタロトは怪訝そうに聞き返した。
最初のコメントを投稿しよう!