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「すみません、その二週間は私の飛び級試験がはいっているので」
「研修の前倒しだけじゃなくてスキップまでするのか」
「はい」
アスタロトはまじまじとショウを見つめた。
「長期休暇に戻らないやつなんてめったにいないだろう。お前、天界の方に何か問題でもあるのか」
「ないですよ、問題なんて何も。アスタロト様だって御同様でいらっしゃるでしょ」
ショウは穏やかな口調で牽制した。
「まあ確かに、俺も問題はないが……」
アスタロトは目を細めて遠くを見た。
「俺にはそぐわない感じがするんだ、魔界の家は」
アスタロトの眼差しが遠くを見るように揺らいだ。
「申し分はないはずなんだが、ずっと違和感があって時間が経つほど誤魔化せなくなる。その点、魔界よりここは気楽でいい」
ショウは、驚きを隠しきれずにぽかんと口を開けた。
「なんだよ。随分意外そうだな。私がそういうこと言うのは変か?」
「いや、そうではなくて……」
ショウは戸惑い気味に答えた。何と言ったらいいか、わからなかったのだ。
「同じ……同じような事を、私も、感じているので」
「ふーん」
アスタロトは素っ気なく言ってコーヒー飲んだ。琥珀色の熱い液体がカップの中で揺れている。
「予定はわかった。それじゃ二週間後に迎えに来い」
「承知致しました。その間、アスタロト様はどうされてるんですか」
「たぶんここに引きこもったままだ。今手掛けている魔法定理が完成するまでは」
ショウは部屋を見回した。魔法に取り掛かったら最後、アスタロトがこのあばら家同然の乱れた室内を片付けるとも思えない。
「来ますよ、明日も」
思わず口走り、言ってから焦った。アスタロトが真顔で返す。
「何しに?」
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