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一方、家では尊大な悪魔だが外面は良かった。
動けるようになり克己の手伝いをするようになるとご近所の女子がお祭り騒ぎになった。老いも若きも温泉にやたら入りにきては受付する悪魔のポーっとなって帰っていく。
「なんだこの山、傘地蔵でもきたのか!」
「差し入れだそうだ。皆親切だな」
外仕事をして戻ると茶の間には大量の食糧がてんこ盛りになっていた。
新鮮野菜。稲荷寿司に太巻き寿司、川魚、あんころ餅に花。皆の張り切りぶりがビシビシ伝わってくる。正直、克己がもらう物より質も量も上である。ばーちゃんたちロコツかよ!と克己は内心毒づくが、悪魔は呑気に笑っている。
「ここの暮らしは実に気楽だな。悪くない」
「まあゆっくりしてけよ。どうせ客もこないし、俺も暇だし」
同居生活も十日を超え、克己はすっかり悪魔に気を許していた。
なんならしばらくこのまま居ついてもいいぐらいの気持ちだった。やっぱり手伝いがいれば楽だし、食料も潤う。何より話し相手がいるのがいい。
恐ろしい魔物の世界で苦労するより、ここに居た方が安全安心、口に出さずとも悪魔も同じ心境に違いない。
二人分の食事の支度が当たり前になってきたそんなある日。
山菜を摘んでいた克己に、悪魔が弁当を持って来た。日差しは苦手とみえて悪魔はのろのろ歩いてくる。
隣のマツばあちゃんがお握りを作ってくれると言っていたが、どうみてもその手に提げているのは正月もかくやの三段重である。悪魔が受け取りにいったので、気合が入ったのだろう。悪魔は克己のお下がりを着ているが、どれも自分が着ていたときよりはるかに見栄えがする。ヨレヨレのボロすら絶妙な風合いに見えるのだから美形オーラは凄まじい。
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