2-2 寮

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「何って……ですから食事ですよ。こちらのキッチン、すごくグレードが高いのに手付かずで宝の持ち腐れだ。勿体ないじゃないですか。ここで作れば料理の出来が違う。私も美味しく食べられて好都合です。何ならリクエストもお受けしますよ。研修に付き合って頂くお礼だと思って下さい」 ショウはなぜか必死にアスタロトを説得しようとしていた。召使同然の手伝いを自ら志願しているのが謎でしかない。  だがショウは耐え難かったのだ。アスタロトがひもじそうにしているのも、これから先、二枚舌の連中がアスタロトに近づくのも。  こうして想像するだけでもヤキモキする。だったら、自分が世話をした方が気が楽である。 「とにかくあなたの取り巻きは質が悪すぎます。あんなゴミクズ、近づけないほうがマシだ。上級生に対して申し訳ないけど、彼らは頭が悪いのかな、私にわざわざアスタロト様の悪口を吹き込こむなんて。筒抜けになるリスクを想像できないんだろうか」 「あー、それはたぶんこの間の魔法研究会で奴らが発表した魔法定理があんまり稚拙で大笑いしたのを根に持ってるんだろう。教授陣の前で定理を作り直したら赤っ恥をかかされたって怒ってたし。別にいいよ、放っておけば。面倒だ」 「面倒? そういうところですよ! 魔法以外は全部雑! とにかく今後は私がこちらに参ります。勉強は計画的に進めていますので大丈夫です。ご心配なら飛び級試験の合格を祈ってください」 「祈り? それはごめんだな」 アスタロトはすぐさま否定した。 「何故です」 「祈りは天使の仕事じゃないか。俺は悪魔だぜ。将来の大魔王だ。できないね」 「大魔王とは、また、大きくでましたね」 思わず笑ったショウにアスタロトはすぐさま言った。 「お前は六大天使になれ。つりあいがとれるだろう」 ショウは絶句した。アスタロトが、あながち冗談だけではない本当の響きを持ってこの台詞を言っている気がしたからだ。  アスタロトがアメジストのような紫の瞳でショウをじっと見つめている。その目はまるでついてこられるのかと挑発しているようだった。 「六大天使……いいですね。なりますよ」 ショウも芯はかなりの負けず嫌いである。思わず請け負った。 「では、我々の将来に」 アスタロトは乾杯と言って、自分のコーヒーカップをショウのカップに重ねた。キン、と澄んだ音が鳴る。それはまるでこれからの二人の始まりを告げる鐘のように響き渡った。
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