2-3 準備

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2-3 準備

 金色の粉が、さらさらと降っていた。  その粉は砂よりも軽く、羽よりも冷たい。細かい粒子が高い天井から途切れることなく落ちてくる。 「封印の砂だ。研修のために人間界に降りるものは、封印によって人間に姿を変えなくてはならない。天使も、悪魔も」  その空間に悪魔の声が響いた。そしてその言葉通り、背中に広がっていた真っ白の翼が霧のように消えていく。 「人間に姿を変えるだけでなく、過分な行動を防止するために魔力も制限される。この研修では魔法技術に頼らず、いかに人間を理解できるかが評価の対象になっている。趣旨を良く理解して与えられた課題をすすめることだ」  粉が止まった。床に落ちた砂は部屋の中に据えられた二つのガラスの瓶に吸い込まれていく。  傍らのアスタロトの黒い翼も完全に消え失せている。髪も短くなり瞳の色も黒に近い。だが本来の部奢な体格は人間に姿を変えても変わらない。  研修は公平な視点を持つために悪魔と天使が対になって行われる。今回のように天使が研修生の場合には、上級生の悪魔が監督する決まりだ。 「お前、けっこう背が高いんだな」  見下ろされて悪魔はいささか不機嫌に言った。引き締まった体がいっそう天使の身長をひきたてている。彼は切れ長の目で悪魔を一瞥した。 「人間の姿になっても、たいして変らないんですね」 「当たり前だ。ダンゴ虫やスズメになるわけじゃない」 アスタロトの憎まれ口にショウは苦笑した。口を開けば辛辣な事しか言わないが、人間に化けても美しさは変わらずだ。行った先で目立たない事を祈るばかりである。 「研修課題だが」 アスタロトはポケットから紙切れを取り出して読み上げた。 「えーと、迷える魂の救済だな。世にも凶悪で残酷な領主がいるらしい。彼が改心するように働きかけること」 「はい」 ショウは手を伸ばして紙を受け取った。動いた時に背中がやけに軽くて違和感がある。羽根がないなんておかしな気分だった。
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