2-3 準備

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「この封印は絶対解けないんですか」 「いや、そうでもない」  アスタロトは早くも封印の部屋から出ようとしていた。ドアノブをつかんで振り向く。 「封印の砂はそんなに強固な魔法薬じゃない。魔法もその気になれば使えるし、本人の意思やアクシデントで姿が戻ることもある。だが、よほどの事情がない限り減点対象になるから注意しろ。このガラス瓶に入った封印の砂は使った魔法に反応して量が減っていく。いいか、再試までは付き合いきれないからな。これ以上世話をかけるなよ」  偉そうに言うが、そのアスタロトに不安が隠しきれないショウである。  とにかく手間がかかるのだ。  自ら食事係を買って出たとはいえ、想像以上のマイペースぶりである。初めは一日一回食事の世話をするだけのつもりだったが、結局、掃除に研究の手伝いにと散々翻弄された。 「なんだ、文句がありそうだな」  アスタロトはショウの不服を感じ取って因縁をつけた。ショウは基本、冷静で感情が出ないタイプである。だがアスタロトは最初に会った時からその心の動きを敏感に見抜く。無神経なんだか繊細なんだか判断がつかないが、取り繕っても無駄なので、最近は諦めて素のままになりつつある。 「多少はお役に立っていると思うんですけど」 「世話もするけど口も出すだろう。部屋を片付けろだのメシを食えだの夜は寝ろだの、お前は生活指導員か」 「私はまっとうな事しか言ってません。規則正しい生活は健康の基盤ですから」 「あー、やだやだ。何日ロスするんだろう。今頃新しい魔法定理が完成している頃だったのに」 「大丈夫です、研修はできる限り短期間で終わらせます」 ショウは意地で宣言した。  アスタロトは研修の事となると露骨に機嫌が悪くなる。よほど嫌なのだろう。だが、その研修が終わればペアは解消され、元の上級生と下級生に戻るのだ。短期間で終わればそのぶん別れも早くやってくる。ショウはそれを望んでいるかどうか自分でもわからなくなっている。  
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