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世界は天界と魔界そして人間界の三界から出来上がっている。
そして天には天の、魔には魔の役割が決まっているのだ。その役割は単純な善悪でなく、むしろ大きな循環である。
天界と魔界はそれぞれの役割を果たして人間界の魂を育成し、その魂のエネルギーで両世界を動かしているのである。
ようやく丘を登り切ると、ふもとの風景が一望できた。
「ほら! 見て下さい、あの石垣、城の塀じゃないですか?」
ショウは嬉しそうに指をさした。
「よく無邪気に喜べるな、お前」
「資料で見たとおりじゃないですか。典型的なヨーロッパの古城ってやつですよ。かっこいいですねえ」
「呑気でいいよ」
アスタロトはこれみよがしにため息をついた。この丘から城までは、どんなに頑張ってもゆうに一時間はかかりそうだったからだ。
「ようこそ、お客人」
城主は年若かった。まだ青年の面差しである。
薔薇色の絨毯をしきつめた広間の奥、幾重にも重なった絹のカーテンの向こうに玉座があり、レオン・バンテール伯爵は足を組んで座っていた。
細身だが衣服の下の筋肉がわかるほど鍛え抜かれた体。そこにいるだけで周囲を圧倒する強烈な威圧感。伯爵が薄茶の前髪をかきあげると、鋭い双眸が光った。
まるで茶色の硝子玉のように感情の読めない瞳だった。精悍な顔立ちだが、美しさより凄みを感じさせる。
アスタロトとショウは、作法にならって城主の前にひざまずいた。長い距離を歩いてきたおかげで、二人の姿はもはや土埃で煤けている。
山は険しく風は冷たく、足は痛かった。ようやく到着した城は間近で見るとつき抜けるように大きく、城に入ってから広間までがまた遠い。
まず外堀から内部に入り込むまでに厳重なつり橋があり、通過したら即、橋ははずされる。兵士が巡回する広い庭を抜けて城内に入ると、むやみに廊下を歩かされた。おかげでもはや出入口がどこなのかわからない。
噂にたがわぬ警戒ぶり……内心呆れつつ、ショウは顔を上げた。
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