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この城では客が来ること自体が珍しく、いくら大人しくしていても新顔というだけで目立つ。伯爵ツカツカと近寄ってアスタロトの顎に手をかけた。
「そのわりにずいぶんいい目つきをしている」
「⋯⋯」
二人はほんの数秒間、睨み合った。だが、アスタロトが先に相好を崩した。
「俺は門外漢ですよ。客分を騙った敵じゃない。ご心配なく」
「確かに」
伯爵はつられて笑った。
「貴殿の細腕に剣は重すぎるだろう」
伯爵は自由に振舞うが良いと付け加え、従者を連れて出ていった。
なるほど、データの通りだ。
ショウはわずか数時間この城にいただけで、その気詰まりな様子に辟易していた。
資料にあるガルガンテ王国の内乱の状況や、国内においての伯爵の評価は最悪である。だからこそこうして天使が派遣されているわけだが、この状況をどうにかするのが自分かと思うと暗澹とした気分になる。
伯爵の完璧な武力制圧で城内は常に緊張に包まれていた。密かに楽しみにしていた夕食の席もそのムードに変わりはない。
「味はどうだ」
「えっ」
ふいに質問されて、ショウはスプーンを取り落としそうになった。
「どうした、口に合わないのか」
「いえ、大変結構です」
ショウはぎこちなく微笑んだ。正直言って、味など分からなかった。
伯爵は食事中でも気を許しておらず、テープルの周囲を兵士で固めている。もちろん全ての料理は、その場で毒味させてから口に入れるのだ。守られているというより見張られている気がしてショウは厳重な態勢にのまれている。
「どんな学間を?」
伯爵が尋ねた。伯爵にとって兵士など壁同然であるらしい。旺盛な食欲で次々と皿を片付けていく。
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