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「神学と哲学を学んでおりました」
「それはまた優雅な学問だ。アスタロト殿もご一緒で?」
「いや。俺は錬金術でもやっているほうが楽しい」
「ほう」
アスタロトは顔も上げずに黙々と食べている。伯爵は重ねて聞いた。
「どういった物を作るんだ。なにか面白いものはできるのか」
「別に」
アスタロトのにべもない態度に伯爵が眉をひそめた。
肝が冷える。アスタロトは気をきかせて出しゃばらないようにしているつもりだが、これでは逆効果だ。ショウは強引に会話に割り込んだ。
「伯爵! なんでしたら私が哲学について、その、神と心の在り方などご説明させて頂きたく……」
「私はアスタロト殿と話している」
伯爵に睨まれてショウは竦み上がった。
「質問を無視されるのは不愉快だ。アスタロト殿」
その時だった。
ギュン、と背後で突然、風を切る気配がしたかと思うと、次の瞬間には銀色の剣が翻っていた。
「うわっ!」
ショウは思わず悲鳴を上げた。あまりに唐突で何が起きたのかわからなかった。それが反逆だとわかったのは、蒼白な顔で伯爵にとびかかる兵士の顔を見た瞬間だった。
だが伯爵は動じなかった。立ち上がりながら皿を手にとり、スープを兵士の顔めがけて投げつけた。飛沫がショウの頬にも飛ぶ。焼けるような熱さだった。兵士が後ずさった隙に、伯爵は護衛の剣を横取りすると身構えた。
「ショウよけろ!」
アスタロトがテーブルを飛び越え、凄い力でショウを引っ張った。刃が鼻先を掠めた。伯爵はすでに攻撃を開始している。
「お前はどこの残党だ、野党か」
兵士は答えず剣を奮った。伯爵の動きがあまりにも早くて、周囲の者が対応しきれない。警護の兵士も構えはとっていたが、下手に間に入れず二の足を踏んでいる。そしてショウは恐怖で全く動けなかった。
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